目的と手段の連鎖が引き起こす”不都合な真実”とは?

「気がついたら生産性向上が目的ではなく、従業員エンゲージメントのスコアアップが目的になっていた」「従業員エンゲージメントのスコアアップの目的を果たしたが、結果につながったのか分からない」

もし、あなたがこのような状態に陥っていることに気がついたら、どのような気持ちでしょうか。こうなる以前のこととして「そのようなことは起きない…」と思うのが通常かもしれません。

しかし、組織の中で仕事をしている限り、これは十分に気をつけなければならないことでしょう。なぜなら、組織の中には自身が気が付かないうちに、このような現象を引き起こす「目的と手段の連鎖」が上位から下位に向かって存在しているからです。

経営陣にとっての手段は、部署にとっての…

「目的と手段の連鎖」とは、図で表すと下記のようなものです。組織では、経営目標を達成するために設定する目的と手段が、階層ごとにパタパタと連動して入れ替わっていきます。例えば、経営目標として「売上100億円」と設定したら、経営陣にとって各部門に「◯億円」の売上目標を設定するのは手段です。

<目的と手段の連鎖:例>

しかし、部門長から見れば、自部門の売上目標は、その名の通り手段ではなく目的として設定されます。すると部門長は、この目標達成をすべく各部署に「売上◯億円」の目標設定をします。これにより、部門長にとって部署ごとの目標設定は、目的を達成する手段に変化します。今度は、それが部長と課長で起き、次は課長と係長で起きという具合に、目的と手段が階層ごとにパタパタと連鎖していきます。

そして、この連鎖により経営目標を達成しているのが組織であり、組織で動くからこそできる動きでしょう。言い換えると、どこまで下位の階層にいっても最終的には目的と手段が連鎖し、経営目標に連結しているのが正しい組織のあり方でしょう。

よって、この連鎖が上手くいっていれば、組織を構成する人の全ての業務が経営目標の達成につながると理論上では考えられます。しかし、この目的と手段の連鎖には、不都合な真実とも言える問題があります。

目的と手段の連鎖が引き起こす不都合な真実

その問題とは、この連鎖が途切れたり崩れたりすることで、得たい結果に対して“遠回りの解決策”を選択してしまい、なかなか解決に結びつかないということです。組織の中では、目的と手段の連鎖により、同じ事象でも、立場によって目的が手段になったり、手段が目的になったりします。

例えば、これは階層だけでなく部署で齟齬が発生し、目的と手段がぐちゃぐちゃになってしまうこともあるでしょう。そうなると、引き起こされるのが目的に対して解くべき問題である「問題の特定」を誤って設定してしまう可能性が高まります。

ある事象を“手段“と捉えている人は、今すべきことは問題を解決することであり、解決の結果を得ることができれば、手段への固執はないでしょう。

一方、そのある事象を目的と捉えている人にとっては、本来であれば手段なのにも関わらず、その手段を用いることに固執し、実行することを目的としてしまうでしょう。意識の高いあなたであれば、この時点で「目的と手段の入れ替わり」が起き、本来達成すべき目的の達成に近づかないことは、もうお気づきでしょう。

このように、この両者は同じ事象を見てもパラダイムが違うことで、得たい結果が同じであっても、全く違うアプローチをするでしょう。一方は、得たい結果に直接つながる問題を特定し、一方は直接つながらない間接的な問題を特定し、解決まで遠回りをしてしまう傾向があります。

もう少し具体的に説明すると、近年主流になりつつある「従業員エンゲージメント向上」で、このようなことが起きがちです。最近は「従業員エンゲージメント向上が業績向上につながる」として、様々な企業が取り入れています。ですが、ここで改めて考えたいのが「従業員エンゲージメント向上は“直接的”に業績向上につながるのか?」という問いです。

従業員エンゲージメント向上で得たい結果は?

従業員エンゲージメント向上は、本当に「得たい結果である業績向上に直接的につながる」ものなのでしょうか?これを考えるに当たり、あなたに質問です。

「従業員エンゲージメント向上で得たい結果は何ですか?」

この答えは「従業員エンゲージメントを高めたい」ではないと思います。仮に、あなたにとってそれが得たい結果であったとしても、経営陣はその先に得たい結果があるでしょう。そもそも従業員エンゲージメント向上が注目されたのは「業績向上に相関がある」と、ある研究結果で提唱されたことがきっけかです。

だから、本来この従業員エンゲージメント向上によって得たい結果は、「業績向上」「収益性向上」など、企業が市場から最も評価される指標を向上させることだったでしょう。繰り返しになりますが重要なことなので、もう一度考えてみましょう。

「従業員エンゲージメント向上で得たい結果は何ですか?」

得たい結果は「業績向上」「収益性向上」など、企業が市場から最も評価される指標の向上です。これが本来の目的です。この2つの要素を連結すると、このような文になります。

「従業員エンゲージメント向上の手段をとることで、業績向上の得たい結果を得ることができる」

いかがでしょうか。意識の高いあなたであれば、もうお気づきでしょう。これは「間接的」に得たい結果につながるもので、直接的ではありません。あくまでも「従業員エンゲージメント向上が業績向上につながる可能性が高い」という【仮説の前提条件】のもと、得たい結果につながるだろうと、推測で考えていることにすぎません。

現時点では、まだ従業員エンゲージメントと業績向上には「相関がある」とは言い切れない状況にあります。その証拠として、日本の厚生労働省の調査でも「逆相関の可能性」について注意書きを入れています

万が一、これが相関関係ではなく、逆相関であったなら「従業員エンゲージメント向上の手段をとることで、業績向上の得たい結果を得ることができる」という論理は、完全に崩れてしまいます。仮に相関関係が完全に証明されても、このような考えができる時点で、「直接的な解決策」ではなく、あくまでも「間接的な解決策」にすぎないでしょう。つまり、ここでも目的と手段の連鎖が引き起こす不都合な真実が発生しているのです。

得たい結果に対して”間接的な解決策”を選択していませんか?

目的と手段が組織内で連鎖していることは決して間違いではありません。むしろ、経営目標に対して連鎖しているのが正しい組織のあり方でしょう。しかし、その連鎖がどこかで途切れてしまったり、目的と手段を入れ替わって見てしまうと、従業員エンゲージメントのように、本来得たい結果に対して、間接的な解決策を選択してしまいがちです。

そのようなこともり、私たちは組織の目標は、あくまでも「業績向上」に置き、それに向けて必要な業務プロセスの改善が最も効果的だと考えています。業績が向上すれば、経営資源が増え、それが従業員満足につながったり、従業員エンゲージメントの向上やモチベーション向上につながると考えています。

つまり、そういったものは、業績という一次成果物が出たことにより、二次成果物として発生してくるものだと考えています。すべての企業にとって、業績向上や収益性向上は、間接的な解決策である従業員エンゲージメントの向上などではなく、”直結する業務プロセス改善”をすることが最も効果的だと、私たちは考えています。

”間接的な解決策”と”直接的な解決策”、御社が得たい結果に対して有効な解決策は、いったいどちらでしょうか。

<ご参考情報>
生産性向上とエンゲージメント向上を両立する組織サーベイの詳細はこちら

ポイント
  • 経営目標から流れる”目的と手段の連鎖”が途切れたり崩れたりすると、得たい結果に対して“遠回りの解決策”を選択してしまい、解決に結びつかない
  • 近年言われている従業員エンゲージメント向上は、「従業員エンゲージメント向上が業績向上につながる可能性が高い」という”仮説の前提条件”のもとで成立するものなので注意が必要
  • 業績向上や収益性向上は、間接的な解決策である従業員エンゲージメントの向上などではなく、”直結する業務プロセス改善”をすることが最も効果的

< 前の記事を読む>
1. 組織サーベイのよくある間違い~3つ~


ととのえ|代表者プロフィール

大江 功次(おおえ こうじ)

株式会社ととのえ 代表取締役 兼 コンサルタント
早稲田大学商学部卒・青山学院大学大学院 Executive MBA/国際経営修士

主な経歴と実績

・自動車メーカーでCFT(サブパイロット)、組織変革を実際にリード、経験したノウハウを凝縮
・外資系人事・組織開発コンサルのポストサーベイワークショップを設計
・組織開発、マネジメント品質改善で年間200日稼働のコンサルタント

日産自動車にて海外部門、営業部門、秘書室、人事部などを経て、2007年に独立。日産が経営危機に瀕した際は秘書室にてカルロスゴーン氏以下ルノー幹部の受け入れや当時前例のなかったワラント債を活用したストックオプションによる報酬設計などを担当。日産のリバイバル期間中人事部にて33歳で管理職に昇格し、サクセッションマネジメントの構築、ダイバシティ/共感(empathy)をテーマとしたCFTに参画。

立ち上がり時はメンバーとして、共感がテーマとなった際サブパイロットになり、経営陣にチャレンジ。また、当時形にはなっていたものの現場に浸透しきっていなかった日産マネジメントウェイの再構築を経営陣に仕掛け、日産ウェイに進化させていく組織変革の過程を設計、実行した。

その後、日産ウェイを基にしたマネジメント品質向上の仕組み作りにも参画。その仕組みの一過程であるポストサーベイワークショップ(PSW)では、PSWの設計を同僚のアメリカ人インストラクショナルデザイナーの力を借りて設計、グローバル展開を行い、日本においては約700名の部長層を対象に自らファシリテーターを務めた。

こうした経験をもとに2007年、ジョイ・アンド・バリュー株式会社を設立。知識付与型の研修ではなく現場に成果と喜びを届けることをモットーに、実課題を扱いながら業績向上と人材育成の両立を実現する、実践型問題解決プログラム、マネジメント実践プログラムなどを様々な業種のクライアントに提供。

また、外資系組織コンサルティングファームに対しても、組織サーベイのデータの読み解き方、調査結果の業務への転換、ポストサーベイワークショップの進め方に関する実践に即したコンサルティングサービスを提供した。

その後40代後半で自らが患った不整脈や、それをきっかけに始めたヨガや体幹トレーニングなどを通じ、実践知や実践的技能に加え成果を出すには前提としてコンディショニングを整えることが重要であることを認識。また、同じ頃支援したクライアントの方々が心身ともに疲労している様子を見て、コンディショニングから入ったところ、劇的に生産性が上がることを目の当たりにする。

そこから「身・心・場を三位一体でととのえる」をミッションとし、「働く方のQOL向上と業績向上を両立する社会の実現」をビジョンとした「株式会社ととのえ」を新たに立ち上げることを決意。健康経営の一歩先ゆくウェルビーイング経営推進支援に邁進している。


株式会社ととのえ(運営会社) について

株式会社ととのえは、心・身・場を整えることで、働く方のQOLと組織のパフォーマンス向上を支援するテクノロジー&ウェルビーイングコンサルティング会社です。

会社概要

運営会社|株式会社ととのえ(ととのえサーベイ事務局)

代表取締役|大江 功次

所在地|東京都板橋区南常盤台2-18-3

設立|2019年10月10日

ミッション|
「身」・「心」・「場」をととのえる

ビジョン|
業績向上/QOL向上の両立が、スタンダードな社会へ

バリュー|
・自分自身の「身」→「心」→「場」をととのえる
・仲間の人生を応援し、支え合う
・自分が貢献できることを考え、仲間とともに行動する
・お客さまの夢を叶え、喜びを共有する

事業内容|
(1) 「身」・「心」・「場」の状態を可視化する測定サービスのご提供(デバイス提供、ストレスデータ測定・分析・レポート、組織サーベイ分析・レポート)

(2) 「身」・「心」・「場」をととのえるソリューションサービスのご提供(睡眠の質改善プログラム、場の改善ワークショップ、組織開発/人材開発コンサルティング、オンライン/オフラインのインストラクター派遣など)